COLUMN

オーナー向けコラム

新型コロナウィルスがシェアハウス運営・経営に与える影響

2019年11月に中国で発生した新型コロナウィルスは人体・生命への影響だけでなく、幅広く経済活動まで影響を及ぼすようになってきました。身近な例ですと、人の移動が大きく制限されることで、インバウンド需要は壊滅的な打撃を被っております。中でも数年前まではホテル・旅館需要で盛り上がっていた京都の宿泊業などは、予約0売上0の状況が続いているところもあり、いたるところから悲鳴の声が新聞・ニュースサイトで紹介されています。

この影響は、宿泊業に関わらず飲食業・イベント業・小売業・そして不動産業界にも多大なる影響を及ぼしております。他の業界の影響については、他の専門家の方におまかせして、こちらではシェアハウス業界への影響をについて考えてみたいと思います。



短期的影響① 引越が激減

2020年1月頃から新型コロナウィルスのニュースが多数報道されておりましたが、どこか対岸の火事のような雰囲気も漂っておりました。それがこれはかなり大事になるのでは?と多くの方に思われるようになったのは、以下の発表があった後のように思えます。





事実、3月23日の発表前の3連休は外出でにぎわっていたようです。

東京都知事の外出自粛要請と連動して、神奈川・千葉・埼玉・山梨県の知事も不要不急の外出自粛を県民に向けて発表致しました。


このようなこともあり、3連休とは一転して、外出自粛する方が一気に増加したようです。このような状況下では、どうしても急な引越が必要な方以外を除いて、短期的には引越が減少していくことが予想されます。シェアハウスは初期費用が安い・家具家電が付いていることから気軽に引越が可能となっています。それで、1年毎にいろんな物件を渡り合付いている人や勤務地が少し(例えば丸の内から品川へ)変わっただけで、引越する人もいます。

また、シェアハウス内でトラブルがあったり、苦手な人がいたら、すぐ引っ越す人もいます。こういった方々は、しばらくの間は引越を自粛する可能性が高いでしょう。実際に、運営会社にヒアリングを行うと、もとも3月末に退去の予定だった人が、取りやめる相談をしてくることがしばし発生しているようです。  



短期的影響② 外国人留学生・ワーキングホリデーの方が激減

日本が、入国制限を実施している国・地域は180以上になっています。事実上の鎖国状態です。
これでは、外国人の方が新規に日本に入国・生活するのは事実上不可能でしょう。3月末に日本に留学を予定していた台湾人の方は、日本語学校・住宅の初期費用を既に支払っているにも関わらず、キャンセル致しました。またそれに類する事例も多数出ています。また、もともと日本に住んでいた留学生が母国に帰国するケースも散見されます。

外務省によると日本にくるワーキングホリデーの数は、約1.5万人程度/年。日本学生支援機構によると日本にくる外国人留学生の数は、約6.8万人程度/年。8万人を超える外国人の方が毎年、観光以外でやってきますが、その一定数は住居にシェアハウスを選んでおりました。

シェアハウス入居者の1~2割前後は、外国人ともいわれており、その影響は大きそうです。特に外国人を積極的に受け入れていて、インターナショナル交流を売りにしている運営会社は直撃を受けているかもしれません。



短期的影響③ 地方からの上京者が激減

当ポータルサイトの利用者の約3割は地方出身者というデータがあります。「上京者は就職が決まったら東京に来るもんだ」と思っている人が多いかと思いますが、とりあえず東京に行って、1か月くらいかけて仕事を探そうという人が一定数います。そういった方は、無職扱いですから一般賃貸ではなかなかお部屋を借りることが難しいので、シェアハウスを選ぶ傾向があります。
新型コロナウィルスの感染者数が一番多い東京に、とりあえず行こうと思う人は稀でしょう。また、学生のアルバイトがなくなってしまい、生活に支障でているニュースがしばし報道されていますが、東京での仕事が激減してしまうことで中期的に上京者が減る可能性もあります。



外出・移動に制限が掛かることで、引越需要の大幅な減少が予想されます。2020年4月OPENの物件には非常に厳しい状況です。



短期的・中期的影響④ 共益費の上昇

政府からの強い要請もあり、在宅ワークが急増しています。事実、4月上旬の電車利用率は、通常時より30%以上下がっているようです。緊急事態宣言の発令以降は、更に下がっているものと思われます。なので、シェアハウスの入居者でも自宅で仕事をしている方が増えてきているでしょう。そうなると自然と電気・水道などの利用量が増えて、共益費の上昇につながります。

幸にも4月はエアコンのいらないシーズンなので、直近は大幅な上昇にはならないかと思いますが、新型コロナウィルスの脅威が突然なくなることはないでしょう。しばらくの間は、在宅勤務が続く可能性が高く、エアコンを毎日使用する夏頃までその状態が続くかもしれません。そうなると現在設定されている共益費では、赤字になるでしょう。
なお、在宅ワークやテレワークが文化として定着していくことも考えられます。そうなると影響は長期に渡るでしょう。



短期的・中期的影響⑤ 賃料相場の下落

シェアハウスの賃料設定は、同じエリアの物件だとしても大きな“差”があります。共用部のスペックが異なれば、賃料設定が異なるのは当然のことですが、“交流”に付加価値を付けて賃料設定をしていた物件は、賃料の見直しを迫られるかもしれません。ソーシャルディスタンスは緊急事態宣言解除後もしばらくの間実施されるようですから、“交流”そのものがリスクとして認識される可能性があります。

また、交流の有無に限らず、ワンルーム賃貸と同じかそれ以上の賃料設定をしている物件もしばしありますが、不特定多数の方住む場所=リスクという認識がある限りは、ワンルーム賃貸に流れるか、共用部のスペックがそこまで高くなくても賃料の低い方に流れていくでしょう。

交流が魅力、共用部が魅力の賃料が高めの物件の賃料は下落していくかもしれません。賃料を値下げせず、フリーレント2か月!3か月!といったキャンペーンが多用されることもあるでしょう。



短期的・中期的影響⑥ ドミトリー募集の難易度UP

ホテルでも個室タイプと相部屋(ドミトリー)タイプの2つがあり、緊急事態宣言中、大手に関しては個室のみ予約を受け付け、ドミトリータイプは予約停止していたところがありました。感染拡大を防ぐことを第一に考えるなら、賢明な判断だと思います。単純にリスクとしては、【ドミトリー > 個室】 になるので、シェアハウスでもドミトリータイプの募集の難易度があがっていくかもしれません。これだけ、密の空間が倦厭される状況化では致し方ないでしょう。




まだ顕在化しておりませんが、今後起こりえる問題についても考察したいと思います。



今後発生するかもしれない問題① シェアハウス内の集団感染

千葉県東庄町にある障害者福祉施設「北総育成園」にて、職員・入居者の80名以上が新型コロナウィルスに感染していることが判明いたしました。クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」に次ぐ規模のクラスター・集団感染として、ニュースでも大々的に取り上げられています。
これと同様のことがいつシェアハウスで発生するかわからない状況です。外出自粛要請が長期化した場合、自宅・お部屋に引きこもっていることに強いストレスを感じる人も増えてくるでしょう。自粛疲れという言葉も出てきている状態です。お部屋に閉じこもるよりも、共用部に行ってシェアメイトとお話したり、一緒にご飯を食べた方が気が休まるし、ストレス解消にもなるでしょう。でも、その中の一人でも感染者がいたら、、、特に大型物件や最近海外に渡航したことがあるハウスでは注意が必要です。

万が一にもそのようなことが発生した場合は、その物件は「北総育成園」のように名指しで大々的に報道され、シェアハウスは感染リスクの高い住居だと言われるようになるかもしれません。最悪のケース、いろんなシェアハウスにて入居者の一斉退去が起こるかもしれません。
2020年6月1日現在、ルームシェアの方が感染された事例はありますが、シェアハウス内でのクラスター感染は発表されていません。



今後発生するかもしれない問題② 失業者の増加による賃料不払い

アメリカの主要都市であるワシントン・ニューヨーク・サンフランシスコなどでは、日本のような自粛要請ではなく罰金・禁固刑にもなりうる強制力のある外出禁止令が出ております。ワシントンでは違反して有罪となった場合、禁錮90日以下か罰金5千ドル(約54万円)以下、または両方を科される可能性があるようです。そのようなこともあり、あらゆる小売店・サービス業が営業停止を余儀なくされ、たった1週間にて失業保険申請をした人が330万人以上になったようです。これは2008年に起きたリーマンショックの時の5倍強の数字です。たった1週間でこの数字ですので、今後更なる失業者が増える可能性があります。(その後、さらに膨れ上がって5週間で2650万人以上!!!)

日本でも今の状況が続けば、失業者の増加が避けられないかと思われます。特に、宿泊業・飲食業・旅行業・サービス業・高額商品小売業あたりは大打撃を受けておりますので、その業種では失業者が顕著でしょう。シェアハウスの入居者にもサービス業・飲食業などにお勤めの方も多く、そういった方々が失業し、賃料が払えない問題が出てくるかもしれません。正社員等で失業保険に加入しているのであれば、しばらくの間は失業手当で大丈夫かもしれませんが、保険に加入していない方には厳しい状況になるかもしれません。なお、雇用調整助成金が拡充されていますが、雇用主に助成金が支払われるまで4カ月近く掛かるようで、4か月分の支払い余力がないとこの制度が利用できる前に倒産してしまうでしょう。。。

万が一、入居者さまに失業された方がいれば、住居確保給付金制度をご案内してあげると親切かと思います。



今後発生するかもしれない問題③ 外出自粛要請・緊急事態宣言が出た後に実施した内覧・入居者が新型コロナウィルスに感染していた

2020年3月23日に東京都知事の小池氏より、外出自粛要請が出ており(その後政府より緊急事態宣言が発令されました)、不要不急の外出が事実上できなくなってきています。小池氏の発表後の週末の電車利用率は、通常時の3割前後とのことであり、約7割の方が自粛していたものと思われます。また、今後安倍首相より緊急事態宣言が発表される可能性もあります。そのような状況下に内覧を実施し、新しい方がシェアハウスに入居し、万が一にもその方が新型コロナウィルスの感染者だったら、、、管理者側の責任が問われる事態になるかもしれません。

そのようなリスクを早い段階から認識している運営会社は、2020年3月には外国人・外国渡航歴のある方の内覧の停止、2020年4月には、すべての内覧業務の停止をしております。飲食店も自主的に営業停止していているところが増えてきていますが、それはシェアハウスの運営会社も同様かもしれません。




最後にシェアハウスマーケットの機会について考察しておきます。



シェアハウスは不況に強い業種

短期的には、マイナスなことばかり起こることを書いてしまいましたが、長期的にはプラスの市場だと考えております。 米投資銀行ゴールドマンサックスのリサーチチームによるとアメリカのGDPは



・2020年1月から3月がマイナス6%、

・2020年4月から6月はマイナス24%、と記録的な落ち込みになり景気後退に陥ると見込んでいます。



程度の差はあるにしても日本も同様の傾向にあるかと思います。つまり不況になると。不況になると失業者の増加だけでなく、ボーナスカット・給与削減が普通に断行されますので、お財布の紐が固くなるでしょう。

日常生活の中で一番重たい固定費が、家賃であることは言うまでもありません。この固定費を下げるために、一人暮らしから割安なシェアハウスに人が流れてくる可能性は高いかと思います。

また、コロナの影響で一旦は失われてしまったオフラインコミュニティの重要性が再定義される可能性が高いでしょう。
コロナの脅威が残っている間は厳しいかもしれませんが、中・長期的には、シェアハウスマーケットにはチャンスが来るかもしれません。



アナログ感の強い不動産業界にオンライン化の流れ

シェアハウスを含め、不動産業界全般に言えることですが、IT化が非常に遅れていると以前より言われておりいます。今回のコロナショックの影響で、動画内覧・VR内覧など非対面型での内覧が進むかもしれません。また現場ではまだお申込手続きを紙で実施しているケースが多いですが、そのあたりの手続きもオンライン完結になるかもしれません。ただ、シェアハウスでよく採用されている定期借家契約は紙での締結が法律で定められているので、契約手続きのオンライン化には法改正が必要になるので、まだ時間が掛かりそうです。それでも、オンライン化が進むことで効率性があがっていくでしょう。




シェアハウス運営におけるニューノーマルとは
最近よく耳にするニューノーマルという言葉。もともとは、2008年の世界金融危機時に生まれた言葉であり、リーマンショック以降は大きな構造的な変化を余儀なくされ、「新たな常態・常識」が生ずることを表現していたらしいです。

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