NOVEL

シェアハウス小説

『Re青春デイズ』 3話~宮崎祥子の目線~

シェアハウスをめぐるライトノベル ③宮崎祥子の目線


……忙しい。新しい職場では入って間もなく次々と仕事が振られ、毎日帰宅が11時 過ぎ。へとへとでシェアハウスに帰っても部屋に直行する日が続いている。共有スペースに行けばきっと、シェアメイトたちが集まってちょっとした連日飲み会状態になっている。私はあまり酒が飲めないし、まったり、というよりは、ワイワイ、という感じの体育会系なノリに馴染めない。ほんとは共有スペースでゆっくりご飯を食べたいところだけど、きっと巻き込まれてしまうので、いつも弁当を買って部屋で食べるか、帰る前に外食して済ませている。朝は朝で、通勤ラッシュがものすごい。そのうえ、池尻大橋から新しい職場がある築地までの乗り換えは2回。前は乗り換えなしの1本で職場まで行けた。だから余計、通勤だけで疲れてしまう。

……そう、池尻大橋のシェアハウスに住み始めて2週間で、私はすでに引っ越したくなっている。



「仕事終わった。来週水曜日会える?」

文彦からLINEでメッセージが届く。

「大丈夫だよ。でもごめん、終わる時間が見えないから、何時になりそうか当日連絡してもいい?」
文彦は、私が2年勤めた前の会社の同僚で、1年前から付き合い始めた。前の会社は今の会社とは違って効率第一を掲げているような社風だったから、逆に6時きっかりに終わらないといけなかった。日報に書いた業務内容を上司に「この1時間、無駄じゃないか?」と重箱の隅をつつくような指摘されるほどで、早い時間に終わるとは言え、かなり息苦しい環境だった。しかも途中、企画からシステムの部署に異動になり、ずっとPCの前で過ごす日が延々と続く日常を味わった。外に出て外部の人と接することのない業務は初めてで、内勤というものがいかに自分に向かないかを痛烈に感じ、会社に行くモチベーションが著しく低下した。そんなときに付き合い出したのが文彦だ。

文彦は、3社を渡り歩いた私と違って新卒からずっと同じ会社に勤めている。趣味は美味しい食事ができるちょっとグレード高めな店に行くこと。要はグルメなのだ。



「そっか、じゃあ予約はしないでおくよ。時間分かり次第連絡もらえたら」

いろんなお店に連れて行ってもらって舌が肥えた。それ自体はいい経験になったけど、本来私自身は結構何でもいいタイプだ。だからたまには、適当なカフェでも安居酒屋でもフラッと立ち寄るようなラフさも欲しい。シェアハウス近くの中華料理屋で回鍋肉をつつく午後10時45分、「OK」のプレートを持ったウサギのキャラのスタンプを文彦に送った。

svgこの記事を書いた人
奥 麻里奈

1982年8月3日生まれ、獅子座、O型。大阪府出身。都内のオフィス複合型シェアハウスに住む、フリーランスの三十路ライター。美容専門誌編集者としてまだ出版社に勤めていた2012年1月からシェアハウス生活をスタート、1年後に独立。現在は、ファッション・ビューティからキャリアビジネスまで分野を問わず活動中。シェアハウス内のラウンジがおもな仕事場。趣味は服と読書。