NOVEL

シェアハウス小説

『Re青春デイズ』 2話~堀本みさおの目線~

宮崎祥子からLINEでメッセージが来たのは、彼女に誕生日メールを送ってから1か月くらい経った頃だったように思う。誕生日メッセージの返信はなかったけど、そもそもずさんな私がメールを送ったのは2日遅れだったし、「きっと忙しいんだろうな」と思って取り立てて気にしていなかった。そしたら、転職が決まったことの報告と、どのシェアハウス物件にしようか迷っているという内容だった。「転職活動は知的トライアスロンだね」と言う彼女の水面下での相当な奮闘ぶりに心から感心した。そして、半年前にフリーになった自分は、転職といういかにも苦痛の多い通過儀礼からはすでに免除された身分だということに胸を撫で下ろしたのだった。

「フィーリングで決めた方がいいよ!思ってた条件と合わなくても祥子さんが『ここだ!』って感じたところで」

そう私は返信した。住む環境を変えるというのはすなわち、自分自身をバージョンチェンジするということだ。それなのに、今までの自分がこだわっていたものを引きずった選択をしたって意味がない。ほんとはそう講釈して先輩風を吹かせたいところだけど、できるだけ押し付けがましくならないように気をつけながらLINEのやり取りを進めた。



東京に来てから住む場所を5回変えている私は、生活スタイルを変えるには環境を変えるのが一番手っ取り早いということを知っている。だけど、彼女はまだ1回も引っ越したことがない。つまり、自分の生活スタイルを根本的に変えた経験はないはずだ。そして、それによる自分リニューアルの快感も味わったことがないだろう。だから、変化しようとしている彼女に対して「やっとその気になったか」とも思いつつ、転職と引っ越しを一気にやってガラリと方向転換しようとしている潔さにあっぱれな気持ちも抱いている。


阿佐ヶ谷は三鷹の延長線上だよ。どうせなら、池尻大橋にしなよ。

10年以上三鷹に住み続けた彼女にそう言いたいところだけど……。

LINEのやり取りは数日続き、彼女はほかの物件も見回っていたようだが、結局はその2つで迷っている。「どうしよう……もう何が何だか分からなくなってきた」とメッセージが来た。迷いすぎて煮詰まってきた彼女は私の判断を仰ぎたい気持ちになってきているようで、「どう思う?」と私に水を向けてきたので、結局言ってしまった。

「どうせ変えるんだったら、今までと全然違う環境にした方がいいと思う。阿佐ヶ谷だと三鷹とそんなに変わらないから、私だったら渋谷から1駅しか離れてない池尻大橋にするな」

すると、彼女からほどなくして返信が来た。



「うん、分かった、今ピンと来た!池尻大橋の方にする。三鷹の落ち着いた雰囲気から一転して、ザ・東京みたいな都会のど真ん中に住むわ。」

そうして彼女は会社を移る2週間前にシェアハウス生活をスタートさせた。

svgこの記事を書いた人
奥 麻里奈

1982年8月3日生まれ、獅子座、O型。大阪府出身。都内のオフィス複合型シェアハウスに住む、フリーランスの三十路ライター。美容専門誌編集者としてまだ出版社に勤めていた2012年1月からシェアハウス生活をスタート、1年後に独立。現在は、ファッション・ビューティからキャリアビジネスまで分野を問わず活動中。シェアハウス内のラウンジがおもな仕事場。趣味は服と読書。