NOVEL

シェアハウス小説

『Re青春デイズ』 6話~加藤梨華の目線~

あの日の祥子を思い出すと愛おしい気持ちが込み上げてくる。共有スペースにいたのは3人。宏枝と友祐と私、全員会社帰りにダイニングでまったりビールやら缶チューハイやらを飲んでいた。深夜11時半を過ぎた頃に、こちらの様子を伺うような雰囲気で祥子が入ってきた。

「あ、お久しぶり~」

友祐がフレンドリーに話しかけたことで、祥子は安堵の色を顔に浮かばせ、「こんばんは」と言った。

「会社帰り?一緒に飲もうよ〜。何にする?ビール?」

オープンしてまだ1か月弱。新しい人と出会うことに貪欲な私たちは、シェアハウスに入った途端、“コミュニケーション能力が高い人”に変貌する。さも今までも高かったかのように装って、これまで発揮していた人見知りを封印するのだ。それがシェアハウスのオープニングという特別な時期にみんなが遍くかかるマジック。この日までの祥子はそのマジックにかかるまいとしていたところがあったんだろうと思う。

「うん、ビールにする。ありがとう。今日は人少ないんだね」

「そうだね、でも12時過ぎたら増えるよ、きっと」

宏枝が言った通り、12時半過ぎには10人くらいになっていたのだけど、その頃には祥子は楽しくて仕方ないと書いてあるようなえびす顔をして笑い転げていた。今まで人の輪に入ることを拒んでいた人が、気持ちがほだされて打ち解けている様子を見るとちょっと涙ぐむような幸せな気持ちになる。それは実はお節介な感情かもしれないけど。でもそんなお節介も1時間後には雲散霧消した。酔っ払って前後不覚になった祥子は、何をどうしたのかキッチンのシンクで寝落ちし水道のノズルを破壊、真夜中の共有スペースを洪水にしたのだった。

svgこの記事を書いた人
奥 麻里奈

1982年8月3日生まれ、獅子座、O型。大阪府出身。都内のオフィス複合型シェアハウスに住む、フリーランスの三十路ライター。美容専門誌編集者としてまだ出版社に勤めていた2012年1月からシェアハウス生活をスタート、1年後に独立。現在は、ファッション・ビューティからキャリアビジネスまで分野を問わず活動中。シェアハウス内のラウンジがおもな仕事場。趣味は服と読書。